2009/12/18 いよいよ最終日。しっかりと夜まで病院研修したのち帰路へつく。 [帰国]

7:15 病院に到着。皆より一足早くセミナー室に到着した。PCを立ち上げておいてトイレへと部屋を出ていると1人・2人と参加者が増え始める。昨日の晩に、Dr.Bharathiに朝のプレゼンをするように言われていたからである。プロジェクターの場所が解らなかったので、レジデントの先生に持ってきてもらう。Dr.Hariなどが集まってきた。何やら期待感を持って準備を見守っている。
7:30 簡単に2週間のお礼を言った後、福岡の観光名所や食べ物、大学の紹介をしておいた。それからは先月台湾で発表した橈骨遠位端骨折のMIPOの内容について、ビデオを交えて10分程度喋った。幾つか想定される質問が来て無事に終了となった。日本から遥か彼方のコインバトールで日本の福岡の認知度が多少上がったかも知れない。しかし、一番受けた(というか引いた!?)のは、もつ鍋のくだりだった。。。
8:10 今日のプレゼンは意外と早かったので、カンファ自体も早めに切り上げた。最後にDr.Hariが気を利かせてくれてみんなで記念撮影をしようと提案してくれる。多少とっつきにくい感はあるかも知れないが、結構いい人なのだった。もう少し彼とは深い会話をしておきたかった。ここGanga hospitalでは、Dr.Sabapathyの右腕としてなくてはならない存在だが、年齢はおそらくまだ39歳くらいと自分とそれほど変わらないのだ。世界には凄いヤツがいっぱいいる。
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8:30 3Fの喫茶でお決まりの朝食を摂っていると、Dr.BharathiとレジデントのDr.が病棟回診を行っているのが見えた。ちょうど食べ終わったので、最後の日だし、一緒に参加させてもらうことにした。舟状骨骨折のギプス固定(どうも他の合併損傷もあったみたい)が入院していた。日本ならどうする?と聞かれたので、depends on the activitiesで、必要なら経皮的にheadless screwで固定しますと。最近は背側刺入ですることが多いです(手技が容易だからと言っておいた)。こちらはまだギプスが基本のようだった。患者にとっては医療費がネックであるようだ。
9:00 外来OPDにやって来る。患者がどんどん入ってくる。基本4つの部屋で行い、もう一つのサイド(今日はDr.Sabapathyがいないためか、あまり多くは使われていなかったが)と合わせて8つ+2つ(処置室みたいな少し広いところも使用できる)でDrが行ったり来たりしている。Dr.が座って診察したり、指示を書いたり、打ち込んだりすることはまずない。consultant医師が見回って指示を与え、下級医師がカルテに記載したり、指示を書いたりしている(時にはconsultant医師自ら記載していることもあるが稀)。Ns.にだいたい外来はどれくらい来るのか聞いてみると、200人前後と答えていた(外来は午前中だけなのに・・・)。Dr.が座って何から何までしている日本の外来ではあり得ない数字かも知れない。診察の細かいデータがあまり残っていないのは気になるが、studyなどしっかりデータが必要なものに関しては、PTやOTなどが詳細を評価しているようだ。役割分担がきっちりしているということだ。
10:00 Dr.Bharathiに連れられて救急外来に向かう。2名の患者が寝ていた。APSI(インド形成外科学会)からのfellowで今週から6週間滞在するらしい、Dr.Naharも一緒に付いて来た。何度か喋ってみたが、何とも真面目な感じで若干プライドが高い風な一瞬を感じることもあるが、まあまあいい奴そうではある。インド北部のラジャスターン州からやって来たそうだ。急患は、1例が犬に前腕をかなり激しく噛まれた女性で、もう1例が結構ヤバそうな多発外傷だった。右大腿・下腿の多発骨折がありそうだ。顔面損傷もあり、顔面骨骨折、頭部外傷も疑われる。右の眼球が潰れている?かなり腫れ上がってしまっている。急いで指示を出してその場を去って行った。準備が出来次第手術室に向かうのだそうだ。ここら辺の連携というかスムースさは是非見習いたいものである。麻酔科、外傷整形外科、脳神経外科、形成外科がチームとなって一気に治療に向かって進んでいる。当然、それを取り巻いている看護師、放射線技師、手術室スタッフも指示を聞きもらすまいと必死に関わっている。更に重要な役割を果たしているのが、医療クラーク(茶色のサリーを来ているので何となくピンとこないのだが・・・)で、彼女らが素早く入院の手続きや多くの書類などを準備する。また、撮影したデジカメの画像を後日、整理してカルテに挿入している。さらには、退院サマリーなども彼女らが作成しているようだ。当然、医師のチェックや校正が入っているのだろうが・・・。このようにコメディカルがプロ意識を持って、それぞれの役割をこなしていけば、日本でもより良い医療を提供できそうな気がするのだが。。。どうだ?日本は変われるのか?
10:20 更に、もう1例が5Fの一般病棟(20人近く一緒の部屋)にいるという、原因不明の左前腕部以遠の血流不全の症例だった。50代の男性で、特に外傷の既往はなく、突然、左肘以遠の冷感、しびれ、痛み?を伴ってきたとのこと。明らかな麻痺症状はないようだった。Dopplarでも橈骨・尺骨動脈の血流を拾えない。上腕動脈もイマイチはっきりとしない。アンギオCTをオーダーしていた。どこかの血管の閉塞だろうと予想していた。ひとまず画像が出来上がるのを待つこととなった。まずは点滴などでの治療となりそうな雰囲気であった。
10:40 ちょっと疲れてきたので、外来の小部屋(ここに甘いミルクコーヒーと甘いティーが置いてある)でちょっと休憩する。ずっと立っているだけというのも辛いものだ。外来看護師も時々交代で入ってくる。ちょっと2人きりになってしまったので、何か会話しようとして、看護師さんにどうして外来の看護師さんのユニフォームは白いサリーの下の肌着が白と緑と2種類あるの?と聞いてみた。どちらも看護師さんなのだが、白は処置まで行う看護師、緑は患者誘導や指示を聞いたりなどとのこと。役割によって分けているようだ。また、病棟でも気になっていたのが、白いサリーのユニフォーム(これは外来と同じ)と日本のようなナース服(白いタイツにスカート)と2種類あるのか聞いてみた。それはサリー風は一人前のナースで、そうでないのは見習い(看護補助か?)なのだと言っていた。またそれに加えて看護学生もいて、彼女らはピンクのサリーを来ているようだ。
11:00 この時間は小児が何となく多くなってきているような気がする。BPI(分娩麻痺が殆ど)や火傷後の手の瘢痕拘縮の術後患者、多合指症の術後など、日本ではあまり見たことのないような患者がどしどしやってくる。この2週間で過去に経験したことのない疾患や外傷を多く経験することができた。それだけでも来た甲斐があったというものである。ちょっと怖そうな顔のDr.も相手が幼児になると変な声を出してあやしたりするので面白い。やはり赤ちゃんは周りをほのぼのさせる存在なのは万国共通なのだろう。
11:30 診察室ベッドに横たわっているご婦人がいた。まだ下っ端の方のレジデントが、この患者は誰かに刀で何カ所も刺された患者なんだよと説明してくれた。顔面や両前腕、肘、足など複数個所をかなり深く傷つけられている。骨折も伴っていたようで、手術は何度かに分けてかなり時間がかかったのだそうだ。特に前腕部は神経、血管、腱損傷、骨折がありかなり重症だ。現在、装具装着中でリハビリ訓練を行っている所だという。相手は旦那だろうか?何とも可哀そうだ。しかし、50代ということだが、日本で言うところの60代以上に見える。老けている。平均寿命が60代だから、そうなのかも知れない。
12:30 この頃になると徐々に患者が少なくなってくる。ぽつぽつと見ながら、合間に薬のプロパーさんが入ってくる。紙芝居のような感じで製品の説明を行い、最後に製品見本を置いて帰るというのがお決まりのパターンだった。インドのプロパーさんは日本のそれよりも更に謙った感じがある(というか医者が偉そうなのか?)。見ていて何とも可哀そうなくらいの対応をされている。それ程格差があるのだろうか?日本は外見上はプロパーが謙っているが、給料は彼らの方が良かったりするからな~。
13:00 外来も終了し、最後にここでも記念撮影をしてくれた。また、ここガンガホスピタルに4年もいるというムンバイから来たという女医さんともツーショットで撮影してもらった(何となく)。
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13:20 6Fのレストランに上がると、外来にいた下級医師とAPSIのfellowのDr.Naharらがもう注文をオーダーして待っている所だった。また、後から何人か加わって、形成外科ドクター達で賑わった。私は、最後にオニオンドーサを注文した。スプーンが付いて来なかったので、仕方なく右手で食べていると、スプーンは要らないの?と言われたが、慣れたからと言って、そのまま食べて見せた(多少ぎこちなかったかも知れないが)。
13:50 4Fの形成外科手術室の事務所に寄る。研修の最後に、台帳に勤務先住所やメールアドレスと感想文を書いてくれと言われていたので書きに来たのだ。大したことは書けないが(英語だし)、福岡の場所を日本地図で書いてアピールしておいた。
14:10 手術室に入ると、午前中に急患室で横たわっていた多発外傷の患者の手術がすでに始まっている。顔面の処理(顔面骨骨折のORIF、右眼球の損傷など)はMaxillo facialの先生が、大腿・下腿骨折(いわゆるfloating knee)は、traumaの先生が創外固定をしている。実に手術になるまで素早い連係プレーだったと思われる。このような患者は誰が主治医となるのだろうか?聞くのを忘れてしまった。いずれにしても麻酔科の先生の協力が素晴らしいと思われた。
14:30 隣の部屋では、Groin flap術後3週の患者の切り離しが行われている。この手術はレジデントの仕事のようで、consultant医師も特に付くこともなく、事が進んでいる(ある程度上級の医師が担当して、最後の縫合だけは下っ端がする感じ)。
14:50 足背~前腕遠位の広範囲軟部組織欠損の患者が横たわっている。こちらはGroin flapをするそうだ。この手術は手技的にそれ程難易度も高くないので、このような症例には第一選択かも知れない。採取側の問題も少ないし。この手術は始めから結構しっかりと観察させてもらった。まずは、大腿動脈からの分岐(SCIA)をマーキングして、必要な皮弁の領域をcheckする。肘の角度など不自然にならないかどうかも入念にcheckした上で、皮弁をデザインする。この類の手術は美的センスも要求されるので、何となくお絵かきの好きな私には向いている手術かも知れない。
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16:00 何とこんな時間から、BPI(C5-7の上位型)に対する神経移植術が行われる。執刀はDr.Hariだ。本来は14時頃から開始予定だったそうだが、例の多発外傷の急患が入ってきたために、ずれ込んでしまったようだ。それでも2時間程度で収まっているのだから、何とかやりくりしているのだろう。まずは、鎖骨上の腕神経叢を展開して神経刺激を行っている。副神経と肩甲上神経は理解できた。おそらく後でこれらを縫合することになると思われる(ここ数カ月で全くゼロだったBPIの知識が多少は解るようになっているのだから面白い。必要に迫られるということが人間を成長させる一番手っとり早い手段なのだと思う)。いつもの如く、手早い展開を終えて、今度は腋窩部~上腕にかけての腕神経叢を順次展開していく。
17:00 少し時間を見ながら他の手術室も覗いてみると、何故だか脛骨プラトー骨折のORIFがtrauma team Dr.執刀のもと行われている。AssistにはバングラディッシュからのイスラムDr.が付いていた。どうも軟部組織欠損も大きい開放骨折なので、ORIF後に形成チームで皮弁でカバーするのだそうだ。まだこの時点では何で覆うとかは解らず。ORIFの方は骨折部をopen book状に広げて整復後(関節面の転位は殆どなし、骨移植もせず)、にスクリューのみで固定していた。
17:20 再びBPIの方へ。素早く展開が終わっている。Neurometarで刺激を繰り返し麻痺状態を確認。橈骨神経、筋皮神経の反応がない。やはり、Oberlin法を行うようである。どのあたりの神経のfuniculusを持ってくるのか?やどの位置で健常神経(尺骨神経、正中神経)をcutするのか?ということは良く分からないままとなってしまった。
18:00 もう殆どマイクロ下での縫合が完了していた。最後に鎖骨上の別皮切の展開部部に戻り、副神経をcutしてその遠位端をcutした肩甲上神経の近位端と縫合した。縫合はbacklingなく、かつgapもはいよう適度な緊張下で縫合するよう注意していた。だいたいそれぞれが7-8針という所だっただろうか?
18:30 今日で最後であることを改めて告げて、20時頃には帰ろうかと思っていると話をすると、夕食を頼んであげるから食べていったら良いと、またタクシーを手配しておいてあげるからと、Dr.Hariが妙に優しかったのでお言葉に甘えることにした。本当はロッジでちょっとゆっくりしようかとも思っていたが、ロッジ経由で空港まで行ってくれるように手配してくれていた。
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19:00 夕食を頼んでくれて一緒に食べながら、次の母指のほぼ完全切断の症例の再接着症例に備えていた。最後にラッキーというか・・・。見れるものは何でも見ておこうと思っていたので願ったり叶ったりだ。
19:30 執刀開始。基節骨遠位での断裂で屈筋腱のみでつながっているような状態だった。
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まずは、血管の同定だが、チャカチャカと素早く展開する。ちょっと乱暴な気もするのだが、重要な血管は心得ているのだろう。骨の短縮や骨の固定は大雑把な印象。K-wireをretrogradeに骨折部から遠位に向けて刺入し、いったん引きだしてから近位を固定していた(1本だけ?)。その後、動脈1本、静脈2本、神経は?縫合しようとしている印象を受ける。実に残念なのだが、そろそろ時間切れとなってしまった。Dr.Hariを中心にみんなにお別れをして手術室を後にした。
20:00 ロッカーで着替えていると、Dr.NaharやバングラのイスラムDrやその他若手の医師が集まってきた。握手をして別れた。みんなそれぞれ違う国・地域かも知れないが、医師として成長しようという心は同じもの同士。何となく解り合える気がする(おそらく彼らの方がだいぶ若いのだろうが)。自分にとって刺激の多い病院であり、良い経験となったことは間違いない。
20:10 病院前にタクシーがやって来た(こちらはタクシーというとボックスタイプなのだ)。
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空港まで500ルピーだと言う。ちょっと高い気もしたが、Dr.Hariが頼んでくれたこともあるので、素直に従っておいた。しかし、MKロッジで30分ほど待たせることになったが。日本では到底得ることのできない多くの刺激を受けさせてもらった。
20:55 MKロッジで携帯の充電を急いでしたり、最終の支払いを行っていよいよ出発となる。残念ながら、街中に出向いてお土産を買って帰る余裕はなかった。
21:30 コインバトール空港に到着する。出発の3時間前くらいだったので、まだかなり余裕がある。いろいろと面倒なセキュリティチェックや搭乗手続きもあるので空港でのんびりすることにしよう。また、小銭は出来るだけ使っておきたいので、Dr.Hariお薦めの空港書店に寄ってみることにする。
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22:30 チェックインを済ませて、荷物も多少軽くなり、喫茶で休憩しながら、本屋で買った英語のビジネス書(何でいきなり!)をぱらぱら読んで時間を過ごした。
今回の研修が有意義なものになるかは今後の活動にかかっていると思う!!

寒さと暑さと飢えと渇えと風と太陽の熱と虻と蛇とこれらすべてのものにうち勝って犀の角のようにただ独り歩め「ブッダのことば」(スッタ・ニパータ)

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